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高校生向けものづくり講座 開催報告
開催日:2023年4月8日(土)10:30~12:00
会場:展示ホールE内 特設ステージ
登壇者:坂本 順一 氏/ 山村 健 氏/ 安井 信博 氏/ 萩尾 清二 氏
MC:荒戸 完(ZIP-FMナビゲーター)
第2回名古屋モーターサイクルショーで開催された高校生向けものづくり講座。
国内4メーカーの開発者に各社の設計思想、バイクの楽しさ、開発の醍醐味、苦労、裏話を聞いてみました。
<各登壇者のプロフィール紹介の後、高校生向けものづくり講座が開始された>
――各社の設計方針や思想を教えてください。
坂本(ホンダ):ホンダの設計思想はトータルコントロール、といってもよく分からない人もいると思いますが、要は扱いやすさと楽しさです。人の体の一部になれるようなバイク作り。この考えは、スーパースポーツからツーリング、ビジネス向きまで一貫していて、昔も今も、この先もずっと続いていくものだと思っています。
山村(ヤマハ):ヤマハのバイクには「人機官能」という開発思想があります。人と機械を高い次元で一体化させることで、悦びや興奮、感動を生み出すことを表しています。速さ、快適さ、具体的に何を優先させるかはバイクの位置づけによって異なりますが、どのような使い方をするのか、何を求めているのか、ユーザー視点を忘れずに設計、実験していくことを心がけています。
安井(スズキ):スズキは、社是の第一にある「お客様の立場になって価値ある製品を作ろう」の精神に則って、感動していただくことを最も大切にしています。バイクは耐久消耗品ですが、クルマと違って機能部品が外観部品になるという特徴がありますから、ボルトひとつとっても注力しています。それとコスト感覚。我が社が一番だと自負しています。
萩尾(カワサキ):設計思想を挙げる前に、皆さんはカワサキに対してどのようなイメージを持っていますか? 一般的に多いのは「漢(おとこ)カワサキ」といった武骨なイメージだと思うのですが、私たちが掲げる思想はライディオロジー。ライドとイデオロギーを合わせた造語で、走りへのこだわりを表しています。それとファン・トゥ・ライド。決して武骨、凄み一辺倒ではなく、ライディングの楽しさを追求しています。
<開発設計責任者による深い話に関係者も耳を傾ける>
――我が社自慢の設計技術、それにまつわる苦労、感動話を聞かせていただきたいです。
坂本(ホンダ):デュアル・クラッチ・トランスミッションです。このDCTは、オートバイをもっと自由にするというキャッチコピーで2010年、二輪車に世界初搭載しました。自信はあったのですが、当初は大変。「バイクにクラッチはロマンだから、DCTは必要ない」という声が多く、思うように普及しなかったんですね。そこでターゲット層を見直したり、販促にも力を入れたりと、地道な活動を続けて、2020年頃からようやく普及率が上がるようになりました。技術力だけでなく、お客様の感性、要求に寄り添うことの大切さを改めて実感し、とても勉強になりました。
山村(ヤマハ):ヤマハ最新の自慢はミリ波レーダーと連携したブレーキシステムとアダプティブクルーズコントロールです。前方の車両を検知する安全運転支援システムで、自動運転に近いことをやってくれます。高速道路などの道中でライダーの負担を軽減するので、その分、目的地で心ゆくまで楽しめますし、交通事故の防止にも役立つと思います。ブレーキが自動作動してもライダーが不快にならないよう、サスペンションを調整して車体があまり沈み込まないようにしています。
安井(スズキ):お二人の話の後だと、ちょっと地味になってしまいますが、我が社はスズキエコパフォーマンス、頭文字をとってSEPです。簡単にいうと技術改善の積み重ね。各部品の軽量化はもちろん、メカニカルロスやフリクションロスの追求なども徹底し、燃費を向上させたりと、地道に改善を続けています。最近のモデルケースで一例を挙げるとジクサーの実燃費。あるメディアが計測したらカタログ値よりも遥かに燃費が良くて、「燃費おばけ」と呼ばれるようになりました。そうやって話題になったり、お客様が喜んでくれるというのは、設計者冥利に尽きますね。
萩尾(カワサキ):カワサキは、感性に響く排気サウンドの作り込みです。機種ごとの排気サウンドをいろいろな人に聞いてもらった印象を分析してマップ化したものがあるのですけど、そのデータをもとに新機種の目指す方向をまず決めます。意図する排気サウンドを出すにはパイプ、マフラー、チャンバーが要。排気の流れや圧力エネルギーといった要素がエンジンの回転数に応じてどう変わるかを調べて、細かく調整していきます。例えば迫力を増したければ音量を上げるのが一番手っ取り早いのですが、当然、騒音規制があるので、そう簡単にはいきません。いろんな要素のせめぎ合いの中で試行錯誤を繰り返しながら、ワクワクするような排気サウンドを作っています。
――カーボンニュートラルへ向かって社会が変化する中で、二輪業界が目指すバイクの形とはなんでしょうか。
坂本(ホンダ):海外も含めてお客様の声を聞いてると、日本のお客様は環境意識がとても高いようです。私たちメーカーはその要求に当然応えていかなければなりません。今は電気一辺倒みたいになっていますが、選択肢はそれだけではないと思います。
安井(スズキ):そうですね、適材適所で考えるべき。短距離を走るなら電気が便利だと思いますが、長距離を走る場合だと充電が持たないことがあるので、別のソリューションが求められます。ちなみにスズキはバイオガス事業として、牛糞からメタンガスを取り出して車を走らせる計画を発表しています。
――ここからは高校生からの質問に答えていただきます。
――1台のバイクを完成させるにはどれくらいの時間がかかるんですか?
<熱心にメモを撮る高校生>
萩尾(カワサキ):機種にもよるんですけれど、エンジンで2~3時間、車体で2~3時間トータルで5~6時間といったところです。ただ1台ずつ組み立ててるわけではなく流れ作業で組み立てているので、例えば1日200台組めるラインだとしたら、2~3分で1台のペースで完成する計算ですね。
――試作車は最後、どうなってしまうんですか?
山村(ヤマハ):スクラップです。開発者全員の汗と涙の詰まった試作車ですので、とても悲しい気持ちになるのですが、それは一時的です。なぜなら次の段階として量産され、お客様のもとに届くわけですから、嬉しい気持ちもあります。
――新製品の車名はいつ決まるんですか?
坂本(ホンダ):車名によってバイクの性格が決まっちゃうっていうと少し語弊がありますけど、それくらいネーミングは大切なものです。スタートが0で、量産が10だとすると、2ぐらいのかなり早い段階で車名は決まっています。商標登録やデザインの関係で早めに決めなきゃっていう事情もあるので。
――なぜ四輪ではなく、二輪に興味を持ったのですか?
安井(スズキ):まず幼い頃、父親が運転するバイクの後ろに乗った現体験が大きいかな。それで免許を取って、初めて運転した時、 羽が生えたような感覚になったんです。もう行動範囲が一気に広がって。それと機能部品がそのまま外観デザインとなる機能美。眺めてるだけでワクワクします(笑)。
――二輪車の開発でやりがいを感じるのはいつですか?
萩尾(カワサキ):初めて計画したものが商品としてできあがった時はすごく感動しました。今でも鮮明に覚えています。あとは今日もそうなんですけど、自分が開発に携わったバイクの横にこっそり立って、お客様の生の声を聞くんです。いいよねっていう声があると、それまでの苦労が吹き飛ぶぐらいすごい嬉しい。それがやりがいです。
坂本(ホンダ):そうですよね。特に自分が開発で意思を込めたオートバイが、街中で走ってる姿を見かけた時って、すごく嬉しい。設計者冥利に尽きるというか。
――今後どんなバイクを作りたいですか?
山村(ヤマハ):まずバイクファンを増やすためにも初心者の方に気軽に乗れるバイクを手掛けてみたいです。そうやって、より多くの方に風を切る悦び、走る楽しさも感じて欲しい。究極的には、脳波で動くバイクって最高だなと思います。
安井(スズキ):バイク好きのおっちゃんとしての要望なんですけど、ツーサイクルの250ccエンジンを今の技術で作りたいと妄想してます(笑)。排ガス規制とかで絶対無理なんですけどね。真面目な話をするとやっぱ環境に優しいバイクを作るというのが使命だと思ってます。
<講座の後にはMC・登壇者で記念写真>
生徒だけでなく、多くの来場者や出展者が集まり賑わいを見せた高校生向けものづくり講座。
時にはなかなか見られない実際の企画設計書を公開したり、前回以上にマニアックな話で盛り上がったりするシーンも。
ここでしか聞けない設計秘話を目当てに、ステージを取り囲む円はどんどん大きくなっていきました。
登壇者から溢れる二輪愛、熱いメッセージは次世代の二輪業界を担う若者の胸を熱くしたことでしょう。
※登壇者のプロフィールはページ最下部をご確認ください。
高校生向けものづくり講座
開催報告 番外編
名古屋モーターサイクルショーでしか聞けない高校生向けものづくり講座をわかりやすいイラストでもご紹介します。
登壇者プロフィール
本田技研工業(株)
大型funモーターサイクルカテゴリー
ジェネラルマネージャー
坂本 順一 氏
ヤマハ発動機(株)
PF車両ユニット PF車両開発統括部
車両実験部 部長
山村 健 氏
スズキ(株)
二輪事業本部 二輪第一技術 部長
安井 信博 氏
カワサキモータース(株)
先進国MCディビジョン
第二設計部第二課 課長
萩尾 清二 氏
【MC】 荒戸 完
ZIP-FMナビゲーター
チョッパーから家庭菜園まで幅広い趣味から得たものを、ラジオを通じて発信している。
ものづくり講座を通じて、バイク業界の仕事、魅力を分かりやすくお伝えしていきます。ご期待ください!